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コラム:無人航空機操縦士国家資格取得について vol. 1 飛行や運用に際しての必要性

更新日:2023年6月22日

このたび、当社は国の無人航空機技能証明制度に基づく登録講習機関としての講習を開始することになりましたが、講習の受講を検討されるお客様の多くが12月5日に新設された国家資格の制度について様々な疑問点をお持ちかと思います。


本コラムにおいてみなさまからいただくご質問等を基に、無人航空機の国家資格についての解説させていただきたいと思います。今後の無人航空機資格取得や運用についてのご参考にしていただけますと幸いです。


※ 学科試験の出題範囲に無人航空機技能証明制度の理解や飛行形態と資格の関係といった内容も含まれますので、「0.制度の概要」と「1.法制度に基づく必要性」は学科試験受験の際にも何らかの形で役に立つ内容かと思います。


本記事では、まず現時点(2023年5月時点)での飛行に際した資格の必要性について、まとめます。

  1. 法制度に基づく必要性

  2. 安全運航に資する必要性

  3. 客観的信用に資する必要性


なお、記事作成に際しては最新の情報を基に正確な内容の作成に努めておりますが、説明の都合や分量の都合上、一部簡略的な表現をしている箇所があります。また、資格の必要性については主観に基づく部分があることをあらかじめご了承ください。不正確な内容等がありましたらご指摘いただけますと幸いです。


0.制度の概要

2022年12月5日より国の無人航空機操縦者技能証明制度(いわゆる無人航空機の国家資格)が開始されました。この制度はその区分により一等無人航空機操縦士および二等無人航空機操縦士のふたつに大きく分類されています。


そして、その中で扱う機体(マルチローター型の回転翼航空機・ヘリコプター型の回転翼航空機・飛行機)により3つの区分、機体の重量により25kg未満または25kg以上、そして飛行の方法により基本飛行と目視外・夜間の限定が設けられています。


資格取得には、一等・二等共に下記3つの試験に合格し、資格証の交付申請をする必要があります。なお、これらの試験は原則として※指定試験機関(現在は一般財団法人日本海事協会さま)で受験となります。


① 学科試験

② 実地試験

③ 身体検査


① 学科試験

指定試験機関が実施する三択式の学科試験です。国土交通省航空局HPに掲載されている「無人航空機の飛行の安全に関する教則」


を最低限の必要知識として、航空法や小型無人機等飛行禁止法といった無人航空機に関する規則、無人航空機のシステム、無人航空機の操縦者及び運航体制、運行上のリスク管理といった内容について、各資格に対して十分な知識があるかを問われます。

試験はプロメトリック社の提供する試験サービスにより、各地に多数存在する試験センターにてPC上で受験します。


② 実地試験

原則は指定試験機関が実施する無人航空機実地試験を受験し、合格する必要があります。原則として、と記載したのは当社のような無人航空機の登録講習機関での講習を修了することで、実地試験が免除となるためです。

そのため、資格取得のためには


・指定試験機関で実地試験を受験し合格


または


・登録講習機関の講習を修了



の2通りの方法があります。指定試験機関での実地試験はいわゆる自動車免許の一発試験に近いと思います。各自で試験を申込み、当日は試験会場において試験のみ行います。


一方、登録講習機関の講習を修了する場合は、民間の登録講習機関に受講を申し込み、講習を受講した後、修了審査(実地試験に相当)を受験し、合格することで講習修了となります。


③ 身体検査

身体検査は原則として各資格に必要な項目についての医師による診断が必要となりますが、2023年5月時点におきましては、一等25kg以上の資格を除いて普通自動車免許の提示により身体検査に合格したものとみなされます。

(参考:航空局HP E. 身体検査について https://www.mlit.go.jp/koku/license.html)



なお、これらの3つの試験の合格状況の管理や、資格の交付申請といった手続きは下記のウェブ上で行います。


・技能証明書取得に関する全体的な管理:航空局DIPS2.0(個人アカウント)

・学科試験と実地試験受験:日本海事協会無人航空機試験申込システム


以上が無人航空機技能証明制度に基づく資格の区分や試験の概要になります。ここで重要な注意点として、これらの資格は取得することによって無条件で無人航空機の飛行ができるようにるというものでない、ということです。各資格を用いて無人航空機の飛行を実施させるに当たっては、様々な条件が付随することに十分留意する必要があります。


次は無人航空機の国家資格の必要性について、3つの側面から考えていきたいともいます。


1.法制度に基づく必要性

はじめにお伝えしておきたいのは、記事作成時(2023年6月時点)においては無人航空機操縦者技能証明書(国家資格)の取得は、カテゴリーIII飛行をしない限り無人航空機の飛行において制度上は必須ではありません。


これは航空局HPにも記載されている内容であり、資格取得をご検討のみなさまにおいても必ず知っていただきたい内容です。カテゴリーIII飛行については後ほどご説明します。




では、一等・二等無人航空機操縦士の資格にはどのような役割があり、どのような場面で必要となるのか?また資格が必要ないのはどんな場面なのか?について下記に解説していきたいと思います。


下記に長い説明を書いていますが、先に結論をまとめます。


① 一等無人航空機操縦士

これまで禁止されていた、立入管理措置を講じず第三者の上空での飛行(カテゴリーIII飛行)を許可・承認を受けて実施することができるようになる。(第一種機体認証を受けた無人航空機が必要)


② 二等無人航空機操縦士

従来の飛行の許可・承認申請をして、許可・承認書の取得が必要だった飛行のうち一部の飛行(カテゴリーIIB飛行)を申請手続き不要で実施できるようになる。(第二種機体認証を受けた無人航空機が必要)



つまり、これまで実施できなかった①の飛行をする場合は一等無人航空機操縦士の資格が必須ですが、許可・承認申請をして実施していた②の飛行をする場合は二等無人航空機操縦士の資格は必須ではありません。申請手続きが不要となるだけです。


さて、結論のみ書きましたがここに書かれている用語をすでにご存じの方は以下は読む必要はありません。ここからは上の内容の詳細について説明していきます。



各用語について

これらの資格についてご説明する前に、無人航空機の飛行に関して重要な用語が4つあります。それは「特定飛行」、「立入管理措置」、「機体認証」、「飛行カテゴリー」と呼ばれるものです。


① 立入管理措置

② 特定飛行

③ 機体認証

④ 飛行カテゴリー


まずはこれら4つについてご説明いたします。


① 立入管理措置

カテゴリーIII飛行とそれに連なる一等無人航空機操縦士資格と第一種機体認証を理解するのに最も重要な用語は立入管理措置だといえるでしょう。立入管理措置についての説明を航空局HPから引用すると、「立入管理措置とは、無人航空機の飛行経路下において、第三者(無人航空機を飛行させる者及びこれを補助する者以外の者)の立入を制限することを示します。」とあります。


大まかにいえば、無人航空機の飛行経路下に第三者の立入を制限した状態が立入管理措置を講じた状態。飛行経路下に第三者ががいる又は入ってくる可能性がある状態は立入管理措置を講じない状態です。


ご自身でDIPS2.0を使用して、目視外飛行や夜間飛行等の飛行許可承認申請をされた方は「立入管理措置」という用語に見覚えがあるかと思います。



立入管理措置の方法いくつかあります。例えば上記画像にあるように補助者を配置することで飛行経路下への第三者の立入を制限する方法や標識・ロープ等により第三者が入れない区画を作ることで立入を制限するといった方法等が挙げられます。


逆にいうと、人口集中地区のような人が多い場所かどうかに関わらず、第三者の出入りがあるであろう場所で何ら立入管理措置を行わない状況は「立入管理措置を行っていない」ということになります。


そして無人航空機に関する航空法が大きく改正された、2022年12月5日より前は、有人地帯上空で「立入管理措置を講じない飛行」は禁止されていました。ポイントは2022年12月の航空法改正で「立入管理措置を講じない飛行」が一部可能となったことです。



② 特定飛行

特定飛行も2022年12月の航空法改正に伴い新しく用いられるようになった用語です。これは航空法132条の85に規定する飛行禁止空域での飛行や航空法132条の第86に規定する飛行の方法で飛行させる場合のことです。


要するにこれまで、DIPS2.0等で飛行の許可・承認を受けて行っていた飛行(人口集中地区上空での飛行や目視外飛行等)のことを指します。


ですので、これまで飛行許可・承認の手続きが必要だった飛行のことを特定飛行と呼ぶようになったと考えれば分かりやすいかと思います。


国土交通省発行の無人航空機の安全に関する教則では、特定飛行について次のように説明されています。


「特定飛行については、航空機の航行の安全への影響や地上及び水上の人及び物件への危害を及ぼすおそれがあることから、使用する機体、操縦する者の技能及び運航管理の方法の適格性を担保し、飛行の安全を確保する必要がある。」


この適格性の担保については、無人航空機の飛行に関する許可・承認審査要領で詳細に記載されています。分厚い要領ですが、DIPS2.0で飛行許可・承認の申請を行う際は基本的にすべてこの内容に基づいて審査されていることになります。



従来はこの審査を自己申告による飛行経歴またはHP掲載の民間講習団体の機能認証と、自己申告による機体情報をもとに行っていました。そこに今回の技能証明制度と機体認証制度の考えが加わったことになります。機体認証等については次に記載します。


③ 機体認証等

機体認証制度とは、特定飛行を行うことを目的とする無人航空機の強度、構造及び性能について検査を行い、機体の安全性を確保する制度です。機体認証制度ではカテゴリーIII飛行に関する第一種機体認証と、カテゴリーIIB飛行に関する第二種機体認証があります。


また、メーカー等が設計・製造する量産機を対象として型式認証制度があります。型式認証制度にも第一種型式認証と第二種型式認証があり、各型式認証を受けた型式の無人航空機は、機体認証の検査の全部または一部が省略されます。


機体認証、型式認証には高い基準が求められることから、本記事執筆時(2023年6月)においては第一種型式認証取得し、第一種機体認証を取得した機体は1機体のみとなっています。



④ 飛行カテゴリー

①~③の立入管理措置、特定飛行、機体認証等の内容を元に、飛行カテゴリーについて記載していきたいと思います。飛行カテゴリーについては航空局HP「無人航空機の飛行許可・承認手続き」を基に説明いたします。



(航空局HPより引用)

・カテゴリーI飛行

特定飛行に該当しない飛行ことをいいます。航空法上の飛行許可・承認手続きは必要ありません。


・カテゴリーII飛行

特定飛行のうち、無人航空機の飛行経路下において立入管理措置を講じたうえで行う飛行ことをいいます。第三者の上空は飛行しません。


・カテゴリーIII飛行

特定飛行のうち、無人航空機の飛行経路下において立入管理措置を講じないで行う飛行のことをいます。第三者の上空で特定飛行を行います。


つまり、カテゴリーIとIIは特定飛行を行うかどうか、カテゴリーIIとIIIは立入管理措置の有無で区分されていることが分かります。


(航空局HPより引用)


ここまでの内容を具体的にまとめたフロー図が航空局HPに掲載されています。なお、カテゴリーII飛行にはリスク度合いに応じてIIAとIIBが規定されており、IIA飛行を実施する場合は二等無人航空機操縦士及び第二種機体認証を受けた機体を用いた場合でも現状は飛行許可承認・申請の手続きが必要となります。


さて、以上をもとに再度結論をまとめます。


・立入管理措置を講じずに特定飛行(カテゴリーIII飛行)を実施する場合は一等無人航空機操縦士の資格が必須。


・従来の飛行の許可・承認申請をして、許可・承認書の取得が必要だった飛行のうち一部の飛行(カテゴリーIIB飛行)で飛行の許可・承認申請を省略するには、二等無人航空機操縦士の資格が必要。飛行の許可・承認申請をする場合は今まで通り資格は不要。


同時に各資格でそれぞれのカテゴリーの飛行を実施する際には資格に応じた等級の機体認証を受けた機体が必要ですが、③機体認証等で説明したとおり、現状では第一種機体認証を受けているのは1機体のみで、第二種機体認証のみを受けた機体は確認できていません。



法制度を基に現時点(2023年6月1日)の状況踏まえると、どうしてもカテゴリーIII飛行を実施する必要がある場合を除いて、つまり、これまで同様の無人航空機の運用を続ける場合においては一等無人航空機操縦士と二等無人航空機操縦士については、制度上は資格はなくてもほぼ問題ないことになります。


ただし、これはあくまでの現時点の話になります。


今後、型式認証や機体認証を取得した機体が増えていく可能性は高いです。また、現在は飛行の許可・承認申請で自己申告の飛行経歴や民間の技能認証の提示が、操縦者の知識および技能の証明となっていますが、これが今後も続くかどうかは不明です。


一方で、現時点の制度上の必要性が低い資格にも関わらず、多くの無人航空機関係者は取得に向けて動いています。次は無人航空機技能証明の制度面以外の必要性について、(筆者の主観も多分に含みますが)考えていきたいと思います。



2. 安全運航に資する必要性

上記では現状制度面においての必要性が低いとご説明しましたが、無人航空機の安全運航という観点でいえば、資格取得は有効性は高いといえるでしょう。


無人航空機操縦者技能証明制度は一等・二等ともに下記3つの試験で構成され、資格取得には3つすべてに合格(または修了による免除)が必要です。


・学科試験

・実地試験(または登録講習機関講習修了)

・身体検査



これまでも特定飛行の許可・承認の申請をする際には、無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領に従って、「無人航空機を飛行させる者の無人航空機の飛行経歴並びに無人航空機を飛行させるために必要な知識及び能力に関する事項」について審査が行われていました。


しかし、その基準は今回の資格ほど具体的なものではなく、試験で技能が一定の水準に達していることを証明する必要もありませんでした。そのため、同じ許可・承認書を取得している操縦士でも技能のばらつきが大きかったといえるでしょう。


今回の資格制度では、技能証明証の発行のために明確に試験が設けられたことで、資格取得をした人は知識・技能が一定の基準を明確に満たすことになり、無人航空機操縦者の能力が確実に底上げされることになります。


実際、試験内容も学科試験と実地試験ともに合格に必要な技能は安全運航のために役立つ内容といえるでしょう。


例えば学科試験合格に最低限必要な知識については航空局HPに無人航空機の飛行の安全に関する教則(第2版)※(以下:教則)として既に公開されています。教則はテキストのみで80ページとかなりの分量で、内容も下記のように無人航空機の運航に必要な知識を網羅的に学ぶ必要があります。


  • 無人航空機操縦者の心得

  • 無人航空機に関する規則

  • 無人航空機のシステム(機体に関する技術的な知識)

  • 無人航空機の操縦者及び運航体制

  • 運行上のリスク管理


実地試験についても操縦技術に関する実技試験のみならず、飛行計画作成に関する机上試験と飛行に際した航空法の理解を問う口述試験といった実際の無人航空機の運航時に必要な技能が包括的に試されるものとなっています。


以上のように、無人航空機技能証明制度に基づく無人航空機操縦士資格を取得することは、操縦者にとって高い知識・技能の習得に繋がることから、安全運航に資する必要性は高いといえます。



3. 客観的信用に資する必要性

上記では、安全運航に資する必要性という観点で資格取得の有効性は高いという考えをまとめました。それに付随して、無人航空機技能証明の取得は第三者からの客観的信用を高める効果があるといえそうです。


国家資格として無人航空機技能証明制度に基づく、一等無人航空機操縦士および二等無人航空機操縦士の基準が明確化されたことで、業務の発注者としても操縦を行う者の一定の知識・技能を判断できるようになりました。


これまでは操縦者は自身の実績に加えて、自己申告あるいは民間の講習団体の修了を自身の知識・技能として顧客に対して示してきましたが、今後は国家資格の有無もひとつの指針となるといえるでしょう。


実際に、国家資格の有無が工事の発注の際に加点となる可能性があるといった意見もうかがっており、今後は業務の発注の際のひとつの参考となるといえそうです。



以上のことから、本記事では無人航空機技能証明制度に基づく一等無人航空機操縦士および二等無人航空機操縦士の国家資格の必要性について3つの切り口で考えてみました。


資格取得を検討中の方、あるいは無人航空機の制度について疑問をお持ちの方に参考になれば幸いです。


参考記事

・技能証明申請者番号取得から技能証明書の新規交付まで全体の流れ


・DIPS2.0で受講予定の登録講習機関の選択方法


・学科試験の申込方法について


・登録講習機関受講前の確認事項及び手続きについて












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